初めて彫った般若と武悪(1994年) | その後の般若と武悪 |
面打ちを始めたきっかけ
子供の頃から木工が好きで大人になってもフロントロードやバックロードホーンスピーカーなどを自作、設計・製作過程やサウンドを楽しみ、新たなホーンや音を求めて何set作ったことやら?欲しくても売っていない物や高くて買えない物こそ自作の原点である。20年程前Gyroの職場レクで金毘羅さんに行った際、参道脇の土産物店で能面の一刀彫の実演を見て、参拝もせず作品を見て回り、自分も彫れるのでは?と自作魂に火がついた。
早速ホームセンターでノミと彫刻刀を数本調達したが肝心の木材がなく、厚手の木を5,6枚貼合せて般若、武悪などHow to本の図面や写真を基に彫り上げた。初めて彫った割には出来栄えも周囲の評判も良かったが、丹波の能楽資料館や彦根の博物館で本物の能面と出会い、単に般若などを真似たお面ごっこに過ぎないと思い知らされた。
深みにはまる
能楽資料館に通ううち、館長さんから「見る目があるね!面を打つなら良い面を沢山見なさい」と本物の面に触れさせてもらった。しかし逸品は秘蔵品が多く、滅多にお目にかかれない!逸品を求めて資料を集めるうち、同じ般若でも作者によって様々で、逸品には見る角度によって悲しみや恨みなど表情を変える術が隠されていることに気付いた。
それまでは面打ち用に準備された図面や正面・側面・上下面の写真を頼りに彫っていたが彫り上げた面からは何も感じられず、彫るからには1歩でも逸品に近付きたいものだが、これはと思う面の写真は少なく、ほとんどが斜め撮りで、もちろん図面も寸法図も無い。いまや能面教室も多く、誰でも面が彫れるように材料も道具も型紙も準備されているが、型紙がないと彫れないし、逸品の型紙は家元直伝で教室には出回ることはない。
技術を練磨し
そこで面の斜め撮り写真を見ながら油粘土で立体化、納得いくまで粘土成形を繰り返し、正面と側面をスケッチして木に写し取り、彫り上げる方法にたどり着いた。着色面に比べ、木地面は同じ彫りではメリハリが出せず面の心を汲み取り、彫りにアレンジを加えた。
文・写真:中村 武
copyright Takeshi Nakamura
以降、文は「その2」へ続く。